駄犬、家を買う

一度人生投げた俺が居場所を手に入れるまでの話

『再婚』

昨日、働いていた劇場から逃げ出した話をした。どうやって脱走したかっていうのを、そのうち書こうかと思っているんだが、その前に書いておかねばならないことがある。俺がなんで、こんなに生きづらい思考に囚われているのか。聞いてもらいたい。
自衛隊、本当はずっと続けるつもりで試験を受けた。入隊してからも、除隊するまでに色々あったんだが、よく考えたら精神的な健康と気力が枯渇していたのかもしれない。

『誰かのため』にというスタンスで頑張ると、その『誰か』に失望してしまったときに、気力も一緒に消滅するし、考え方もやる前から『俺なんかクズ…』みたいになるから、大変なことになるぞ?どうせ頑張るのなら、自分のために頑張れ!って思った話。

俺の家は母子家庭だった。中学2年の職場体験で自衛隊の見学に行ったときに、ある程度入隊することになるんだろうなと漠然と思っていた。国を守りたいだなんて大義名分は、俺にはなかった。俺に大学に行って磨くまでの頭の良さはない。生活はそこそこ苦しい。入隊すれば、衣食住をそこそこ安く済ませることができ、安定した給与が入る。貯金をしながら、実家に仕送りをすることができるな…そう考えていた。母親が俺らを育てるために、ひいひいと悲鳴を上げているのを俺は知っていた。
 父親がいないから、俺が稼いでいかないとって思っていた。苦労しながら育ててくれている母親に、少しぐらい楽をしてほしいという気持ちがあった。
 俺は母親が大好きだった。これを読んでいる方は、俺が女の子が好きなの知っていると思うのだが、俺は家族愛もあったが、女性としても母親が大好きだった。
 高校は頭の良くない学校に通っていたが、そこそこ必要な勉強はして、他の生徒が就活を始める頃には陸上自衛隊への入隊が決まっていた。
 これから、俺がしっかりしなくてはと思っていた。自分を奮い立たせていた。本当は、家の近くで働きたかった。母と妹がいる家に、まだ住んでいたかった。でも、苦労してここまで育ててくれたんだから、今度は俺が稼いで少しでも楽をしてもらうんだ。そういう気持ちで、入隊までの日々を過ごしていた。

入隊まで一か月を切ったある日。唐突に、母が再婚すると言い出した。再婚相手は、妹の友達の父親だった。
受け入れがたかった。ああ、そうか。お払い箱。そう、思った。
 今思えば、母は俺が家を出る前にわざわざ話してくれたのだと思うし、その後家に残された妹の方がどれだけしんどかったかしれない。
 だけれど、当時の俺はそれを素直に受け入れることができなかった。母が取られたと思った。俺は要らないんだと思った。お払い箱、そんな言葉が脳裏に焼き付く。帰るところは無くなった。ただただ、胸が抉れるように悲しかった。俺の目的は、中学時代から、早く稼いで家計を支えていくことだった。家のためを、自分のためにしてここまで結構頑張ってきたのに、酷く裏切られた気持ちになった。ああ、俺、必要ない。必要ない。
 この日から現在まで、俺は要らない。生きている価値もない。誰にも愛されない。なんのやる気も起きない。俺が何をしたってどうせ無駄だ。そんな思考に囚われ続けることになる。
 今は、ハニーと出会って、ハニーと一緒に矯正してかなり囚われにくくはなっているものの、たまにその負の感情が溢れて飲まれてしまうことがある。これはおそらく一生無くならない。うまく付き合っていくしかない。
俺の中にはいつも何かに怒っている俺がいる。そいつは、俺が楽しいと思うとき唐突に表れて、『お前なんかいらない』と言って俺の心をぐちゃぐちゃにする。今はだいぶましだが、本当に毎日しんどかった。
 誰の役にも立たない俺はクズだとか、囚われてるときによく出てくる言葉だが。よくよく考えると、誰かの役に立つ必要ってないんだ。

誰かの役に立つ前に、自分の役に立ってくれ。自分を幸せにするためにどうか生きてほしい。
自分を幸せにできたら、きっと他の人にも幸せを分けることができるから。