駄犬、家を買う

一度人生投げた俺が居場所を手に入れるまでの話

『劇場』

俺の失敗した話も沢山書こうと思う。これを見て、こんなやつでもなんとか生きてるんだなって思ってもらえればこれ幸い。

合わないと思ったら辞めることも選択肢の一つである。
辞めることを、逃げや後退と思ってはいけない。
辞めることも進むことと変わりない。
続ける道も、辞める道も、どちらも今の自分より進んだところに伸びている。
ほら、進んでいるじゃないか。
これをどうして、悪いことだと言えるんだい?
※ただし、俺みたいに職場からリアルに逃げて(脱走して)はならないが…

色々あって、とある芸事の劇場に住み込みで働いていた時代がある。時代といっても俺はひと月で辞めた。
自衛隊を任期で除隊し、すぐにそこで働き始めた。正直な話、体力にはそこそこ自信があった。
朝は、四時半頃に起床して、職場に徒歩で出社。ごみなどを回収して回る。先輩方が出社してくる前に米を炊いたり、掃除をしたり…雑用を色々と終わらせる。事務所内の雑用を終わらせて、今度は劇場周辺の雑用に取り掛かる。裏庭にある畑を耕して、ネギを植え。畑の野菜に水をやる。お客さんはあまり入らないのに、やたら広い敷地の草抜きをせっせとこなして、売店の準備をする。開園から一時間に一回公演があり、売店の仕事と、首からジュースが沢山入った鉄の桶を引っ提げて、場内にジュースを売りに行く。合間に無駄に広くて沢山ある、トイレの掃除にまわり、それを一日に何度も繰り返す。公演が終わると、片付けと雑用があって。その後、山に向かって発声の稽古がある。日が落ちるまで、叫び続けて、そのあとも雑用をして、寮に帰るのが7時とか8時とか。
 その時は、入社したばかりだから仕方がないと思ってせっせと毎日働いた。厳しい世界だから、仕方がないと何度も自分に言い聞かせていた。理不尽だろうが何だろうが、上司の命令は絶対である。自分で言うのもなんだが、かなりくそ真面目に働いていた。

 朝から晩まで働いて。時々来る出版社のお偉いさんの、接待を深夜までして。これは俺が悪いんだが、マジで眠たくてコーヒーサーバーをあやまって落っことして一つ割っちゃって。鬼のように怒られたりなんだりして。(サーバー代は給料天引きで弁償)その翌日。丸一日、満車になるわけがない駐車場の端っこで、呼び込みをしていた日に、俺はふっとここにいて何になるんだろう…と考えてしまったのだ。

月に2~4日ほどの休み。運営に人数はぎりぎり。朝から晩まで、無駄に広い劇場の敷地を走り回り。ジュースを売るのに、小ネタを考え。考えたネタで、そこそこうけてもだめだしされる。この世界は俺には厳しいな。この厳しい修行を積まなければ、人間は幸せになれないのだろうか?世の人間は皆こんなに職場に拘束されて生きているのか?俺は、幸せになれないのだろうか?いいや、別に、ここでこれをしなくてもそこそこ楽しく生きていけるんじゃないか??
 俺、ここで何がしたいんだろうか?ということを日が沈むまで考えた。
その日の帰り道、大きい月ときれいな星を見ながら、田んぼのあぜ道を歩いて帰った。
ああ、辞めよう。ここから逃げよう。
俺は、逃げることにした。


ここから、俺は本当に職場から逃げる(脱走)を決行したのだが、その話はまた後で。
仕事を辞めるときは、ちゃんと上司に相談し、退職届を出して、次の人に仕事を引き継いで円満退職するのが普通です。
俺は、社会人としては確実に失格な行いをしているので、よい子はできるだけ真似しないように。やむを得ない場合を除いては。



まだ若い頃の話だが、当時はいろんな人に迷惑をおかけしたし、もう逃げるなんてことはしないと反省し、今はそこそこ真面目にいきている。
それでも、俺は後悔していない。あの日あの時、逃げなかったら俺はきっとズルズル一生満たされないまま生きていた。
 俺は今が幸せだ。話の合う人々、大好きな人、趣味ができる時間がそこそこあって、本当に幸せだ。
なにより、日常に転がっている些細なことが面白くて、それを面白いと思えることが幸せであることを教えてくれる人に出会えた。
 だから、周りからみたら失敗も、俺にとっては大成功だ。ずっとそこで働いていたら『今』はないんだ。

 やりたいことも、行く道も。ちゃんと自分で選択しよう。
ひとつ言えることは、逃げたって、失敗したって、考え方一つで楽しく生きていけるということだ。

楽しく生きられる道を選ぼう。