駄犬、家を買う

一度人生投げた俺が居場所を手に入れるまでの話

忘れていたことを思い出した話

俺のこれまでの人生を振り返ると、相当な転職人生を送っている。
転職してきた中で、一番精神的にきつかった職場の事を先日のきっかけがあるまですっかり忘れていた。正直なかったものにしていたし、本当に先日までそこでどんな状況だったぽっかり忘れていた。

とある会社で、二年ほど事務員をしていた期間がある。
手短に話すと、上司に『給料泥棒』とか『使えないとか』結構頻繁に言われ続けていたのだ。
少し前に、自分のこの自信のなさやか『自分いらない』っていう気持ちが、どこから来ているんだろうかということを深く考えたのだが。その時は、全ての要因は実家を離れるまでにあると思っていたのだが、他にも要因があったんだなぁと思いはじめた。歪んだことを繰り返す要因は、複雑に絡み合っている。
 こんなに頻繁に言われるということは、俺に非がきっとあるのだ。そう思っていた。いつまでもそういわれるのは嫌だから、もちろん教わったことはメモしていたし。なるべく、なるべく、早め早めに。書類を作っておいたり。入力したり。していたはずなんだ。それでも、俺に足りないところがあるから。俺が使えないから。『給料泥棒』って言われるんだなって、そんな感じで思考がぐるぐる回っていた。
 仕事に毎日行きたくなかった。でも、行った。そりゃ、行くしかないしやるしかない。仕事だから。

 俺の上司は、Aをやっといてって言っておいて、完成品を持っていくと『Bって言ったでしょ!何わけわからんことしてるの?』なんて、、、そういうことを言う人だった。
 事務所に二人だけの時に俺に聞こえるように『給料泥棒』とか『履歴書詐欺じゃないの?』とか、『使えない』とか、いう人だった。

 俺、使えないんだよなぁ。俺、要らないんだよなぁ。俺、必要ないんだよなぁ。誰にも必要ないんだなぁ。

そういうものが、慢性的にぐるぐるしていて。会社だけじゃなくて、いろんなものが、俺なんかいらないって言っているような気がしてならなかった。

 結局、俺に非があるから頑張らんと。なおさないと。そうやって2年続けたわけだが、俺はそこじゃずっと使えないままだった。要らないんなら、ここにいても迷惑になるだけだよな。そう思って辞表を出した。
 引き留められた。わけわからんかった。

 辞めてよかった。次の職場では、そんなこと言われなかったし。あっちこっち、手伝って!と呼ばれて、手伝うと、ありがとう!と言ってくれる人ばっかだった。それでも、頭のどこかで『俺は使えない』『俺は要らない』それらが、ずっともやもやぐるぐるしていた。そのもやもやは、『ありがとうって言ってくれるけど、きっとどこかで俺の事なんか要らないって思っている』と、妄想で敵を作り始めた。もともと、そういう気質はあったのかもしれない。母親の再婚。隊での、上官からの嫌がらせ。確かにこれらも立派な要因だ。だが、きっと。俺にとどめを刺したのは、この会社だったんだな。思い出して、なんだか腑に落ちた。

 先日この職場の人間にばったりと出会ってしまうまで、これをすっかり忘れてて。何を言われてやめたとか、どんな気持ちだったかとか。さっぱり忘れていて。でも、唐突に思い出して。その日の夜はボロボロ泣いた。俺は嫌だったんだ。使えないって言われるの、いやだったんだ。結構、しんどかったんだ。

 俺、いま普通に役に立ってるし。何より、俺がやりたいことを俺のためにしてくれている。俺が俺にけっこう満足している。だから、思い出したところで、もうもやもやしていた頃には戻ってやんないのだが…。
 
『自分はできない』『自分はいらない』こういう思考に陥ってしまうと、なかなか抜け出せない。そして、自分で自分の可能性を潰してしまったり、優しい誰かを敵に仕立て上げてしまったりすることがあるから。『お前はできない』なんて刷り込んでくる人間がいるのならば、早く離れてしまえって、俺は思う。
 やろうとする努力は必要だと思う。ただ、人間なんだから。向き不向きがあるのは、当たり前のことだ。完璧じゃなくったっていいんだ。今、そう思えるような思考に切り替わって本当に良かったと思っている。
 俺の思考をどうにかしてくれた人には、感謝しかない。

 そして、もし誰か同じようなことで苦しんでいたら。完璧じゃなくていい。みんな完璧じゃない。向き不向きはあるかもしれないが、考えてみればできることは沢山ある。あなたにしかできないことがある。
『あなたならできる』
 ただただ、そう、伝えたい。