駄犬、家を買う

一度人生投げた俺が居場所を手に入れるまでの話

『不安な夜は抱き枕』

基本的には、日常生活において追いつめられることはほとんどないのだが。稀に、あまりにも肉体も気持ちも酷使すると、眠っている間に体が動いてしまうことがある。

そんな時は、是非ぬいぐるみや毛布など。自分のリラックスできるものを抱っこして眠ってみてほしい。
あなたがよく眠れることを願っている。

自衛官の頃は、正直よくある事だった。自分以外にも、夜中同期が奇声を発して布団から起き上がったり。ぶつぶつ言いながら、五人部屋のベットの間をふらふら歩いているのを何度か見ていたので、自分にそれがおきても何らおかしいことではないと思っていた。日常的に普通でないことが起きていると、普通でないことが気にならなくなってくる。
 一番はじめは、同期が俺の異常に気が付いてくれた。俺に、出歩いた記憶はないのだが、夜中に自分のベットとベランダの前を行ったり来たりしていたのだと教えてもらった。成程っとおもった。俺は、その時丁度夢を見ていたんだ。部屋いっぱいに銃が置かれていて、それを一人で武器庫に格納しなければならない夢を見ていた。早くしないと教官に怒鳴られ…指導される上に、反省が待っている。早くしなければ。
 なんでこんな夢を見たのかと言われれば、まあ似たようなことがその日にあったからだ。朝、武器庫から銃を出して、訓練づくしの一日だった。座学もなく、ずっと屋外、炎天下、重装備、すげぇ走った。途中リタイアする人員が続出する、もちろん倒れた同期の装備はその他人員が持って走る。自分の背嚢・銃+@はよくあることで、今回は特に持ち物が多い日だった。言わずもがなへろへろの状態で武器庫前に整列、武器格納することになったのだが、動作が遅くて教官の指導・連帯責任全員反省という形になって、もう肉体も気持ちも酷使した状態で眠りについたのだ。
 現実だけならまだしも、夢まで不安の塊なのは勘弁してほしい。
 できるなら、夢ぐらいきれいなお姉さんとお茶でもしている夢を見たい。水着のお姉さんと水遊びする夢を見たい。

 一番ひどかったのは、とある宿舎での話だ。昔懐かし緑ベッドの上の段で俺は寝泊りすることになったのだが。朝目覚めたら、手に誰かの迷彩Tシャツを握りしめていた。んん…これは…誰のTシャツだろうか。とか考えながら、作業衣に着替える。ん、足の裏が汚れている…。おかしいなと思った。着替えて、ベットを降りると、隣の下で寝ていた先輩に声をかけられた。
『鷹尾、お前昨日の夜中ベットから飛び降りたぞ?』
 うん。記憶にないぞ。
 先輩の話によると、俺は夜中二段ベットから飛び降りて、華麗な着地を決めたらしい。そして、そのまま廊下に出て、戻ってきたと思ったら向かい側の先輩のTシャツを握って寝床によじ登って戻っていったというのだ。じゃあ、朝握っていたTシャツは…。全力で先輩に謝った。Tシャツ取ってごめんなさい。

 寝ている間に罪を犯していたらどうしよう…。寝ている間に、先輩のTシャツを奪い取っていたことを考えると、可能性はゼロじゃない。恐ろしいことだなと思った。誰かを殺しでもしたら、とんでもないことだ。
 一つ気が付いたことがある。これらは全部、リリィ(熊のぬいぐるみ)と一緒に寝ていないときに起きている。やはり、安心感は大事だ。さすがに、演習や教育、長期の出張めいたものにリリィを連れていくわけにはいかないので、いないときは、余った毛布か枕を丸めて眠るようになった。すると、夜中お前動いていたよというご指摘はなくなった。

 自分がどういう状況ならば安心できるのか。また、どういった状況下で、自分がどういった状態に陥るのか知っておくことが必要だ。
 過酷、多忙な状況に身を置いているのなら余計。どうやったら満足に眠れるのか、追及してほしい。飯食えて、睡眠しっかりとれてりゃなんとかなることが、世の中たくさんある。

俺のおすすめは大きいぬいぐるみ。
名前を付けて、かわいがって。夜の間は、自分のお守りを任せるんだ。
さあ、安心アイテムを探していこう。